この記事では先週1週間の医療ニュースと免疫学の論文を紹介しています。今回も医療ニュースは臨床系の論文の紹介となっています。
医療ニュース
今回も臨床系の論文をいくつか紹介します。
心停止後の低体温療法と平温療法の比較
こちらはThe New England Journal of Medicineに掲載された論文です。
これまでは心肺停止の患者さんに対しては脳の神経学的予後を改善するために低体温療法が行われてきました。僕も研修医時代に救急科でよく心停止後の人の低体温療法はやっていたので良く覚えています。ECMOの温度を低く設定したり、体の表面にたくさんのパッドをつけて行うやつ(アークティックサン)ですね。
この論文では33度の低体温療法と36.5度から37.5度の平温療法の比較を行っています。Primary Outcomeである死亡をSecondary Outcomeで運動機能などを評価しています。
そして結果ですがなんと低体温療法を平温療法の差は全くないということになっています。
2002年に低体温療法が神経学的予後を改善するという論文(下の論文)が出て今ではガイドラインでも推奨されている治療でした。
そして今回の論文はこれを覆しています。研究の規模に関しても今回の方が大きいです。研修医の時に何度も経験した治療だったのでびっくりですね。救急医学の分野は研究が難しいこともあってこういったことがよくある分野じゃないかと思います。
アミロイドーシスに対するCrisper-Cas9による遺伝子編集治療
アミロイドーシスの一種であるトランスサイレチンアミロイドーシスに対してlipid nanoparticleに入ったCas9蛋白を静注するという遺伝子編集治療の第一相臨床研究の結果です。
ノーベル賞を取ったことで話題にもなったCrisper Cas9による遺伝子編集を人で使うというなんとも画期的な治療ですね。今回は第一相なので少人数での安全性の確認です。結果としてはそこまで深刻な副反応が出なかったということですが、なんとトランスサイレチンを低容量群でも半分に高容量群では80%以上減少したという結果です。
アントニオ猪木さんが罹患していることもニュースになった疾患でこれまであまり治療法のなかった疾患です。この治療法が確立されるとかなり画期的だと思います。
こんな治療法存在していたんですね。驚きです。
免疫学の論文
今回紹介する論文はreviewの記事になります。そんなに最近のものではありませんが面白かったので紹介します。元の論文もありますがそっちはあまり読んでいません。
mRNAワクチンが免疫寛容に関係する
今回読んだものはこちらです。
こちらに関してはScienceに出されている論文を簡単にまとめてくれたものになります。
この元のScienceの論文を書いているのが今話題のCOVID19に使われているmRNAワクチンを作成したBioNTechの先生です。
こちらの論文の内容はmRNAワクチンが免疫の抑制にも働かせることができるという内容です。
現在話題になっているCOVID-19に対するmRNAワクチンは当然ですがCOVID19に対する免疫を活性化の方向に進むようにするワクチンです。
しかし今回の論文で紹介されているmRNAワクチンはなんと多発性硬化症という自己免疫疾患を抑えるという内容になります。脳脊髄炎のモデルマウスを用いてmRNAワクチンを投与した群は症状を抑えたということです。今回使用しているmRNAワクチンはCOVIDのワクチンと同じ成分を用いているようですが中身が自分由来のものである(自己免疫疾患なのでそうですよね。)という点やかなり精製しているというところが違ってこのような効果を生み出すようです。
もちろん自己免疫疾患に関わっている要素は一つではないことが多いのでこれだけで良くなると一概には言えませんが、なんだか自己免疫疾患の治療に期待が持てそうな内容ですね。
COVIDの話題の裏でこのようなワクチンも作られていたというのが驚きですね。
まとめ
今回の記事では3本の論文を紹介しました。今週は面白い論文がたくさんあったように感じます。英語で読むのが難しいですが知識を身につけるためにもコツコツ読んでいきたいと思います。
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