心臓血管外科の手術@麻酔科+日本の医療に関して

先日初めて心臓血管外科の手術を麻酔科で経験しました。心臓血管外科の手術はなかなか見る機会もないですし少し興味湧きますよね。感想とか色々あったので書いてみます。

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概要

正直詳しいことはあまりわかりません。その日は当直だったので朝から行われていた手術に途中から入ったんで引き継いだ形です。その日は夜間に弛緩出血、膝の骨折の手術もあったためかなり忙しい当直でした。(僕は研修医なのでそこまで貢献できていないのですが…)
わかる範囲で書くと、その症例は40代男性のstanford B型慢性大動脈解離に対しての胸腹部大動脈置換術でした(大動脈弓部の左鎖骨下動脈が出るところからの大腿動脈まで大きな解離でした)。簡単に説明すると、大動脈解離は大動脈の壁が少し割れてしまう病気でその割れている大動脈を全て人工血管に置き換える手術です。まあとにかく時間のかかる手術ですね。

手術に関して

手術は詳しいことはあまりわかりません笑。学生の時も心臓血管外科は見学しなかったので初めてでした。少し間違っているかもしれませんが大まかに手術の流れを書くと
1:大動脈を見えるようにする
2:人工心肺に接続する
3:大動脈の血流を遮断し腹部大動脈から順に人工血管をつないでいく。
4:人工血管に血液を流す
5:傷を閉じる
かなり適当ですが多分この流れです笑。僕が参加したのは夜の22時くらいからで上の3番の途中でした。仕事が終わったのは朝の8時でその時は5番を始めるあたりでした。つまりこの手術は24時間以上かかってますね。1ヶ月近く麻酔科を研修していますが24時間を超える手術はこの日が初でした。

麻酔に関して

心臓血管外科の手術ではいくつか普段の手術で使わないものも使います。色々ありますが一番大きなものは人工心肺です。臨床工学技士さんがこれは調整しています。出血もかなり多い手術であり人工心肺の方から輸液や輸血を行うので基本的な血圧の管理などは人工心肺使用中は臨床工学技士さんが行なっていました。そのため麻酔科として問題となってくるのはそのほかの時間です。つまりは麻酔導入から人工心肺接続までと人工心肺離脱から麻酔終了までですね。麻酔管理に関してはそこまで変わったことはありませんでしたが人工心肺終了後は出血が多いのでラピッドインフューザーという機械で大量に輸血しました。この機械は1分間に最大1Lくらいまで輸液を行える機械です。ものすごい量ですよね笑。あとすごいと思ったのは心臓血管外科の手術では手術中の出血を回収してそれを綺麗にして再利用することもあるということです。まあこれを使うのは緊急事態のようですがまあ全体として5L以上は出血した手術なので輸血が間に合わない時も出てきますよね。
あとはこの手術では片肺換気を行います。これは肺が邪魔で手術ができなくなってしまうからですね。これは呼吸器外科の手術でも行います。

感想

とにかく長い手術でした。というか朝から行っていた手術を夜に引き継ぎ、朝まで勤務しましたがそれでも手術はおわりませんでした。麻酔科も疲れましたが、執刀していた先生も交代で手術していたとはいえ疲れたと思います。出血が多く血圧が下がった時に麻酔科と心臓血管外科の間で少し雰囲気が悪くなっている時もありました。まあ仕方ないですよね。話は変わりますが、この大動脈置換において重要なのは脊髄への血流のようです。AKA(Adamkiewicz Artery)は国家試験でも学びますね。脊髄を栄養する血管を先に同定してそこをしっかりと再建するのが重要みたいです。また脊髄に先にカテーテルを入れておき、血流を再開した後の温度変化を見て血流がしっかり通っているか確認したりもするようです。ただ今回の症例は残念ながら下肢に麻痺が残ってしまったようです。

考察

僕は心臓血管外科の手術を今回初めて見学したのでとても面白かったです。ただ一つ疑問に思った点があります。それはこの手術を行う必要はあったのだろうかという点です。
ここまで色々書きましたがおかしな所がありませんでしたか?明らかにおかしいところが一つあると思います。

それは今回の症例が40代と若い方であるという点です。普通このような年齢で大動脈解離にはなりませんよね。
ではどうしてなってしまったか、それはこの方は生活習慣がかなりひどい方だったからというのが考えられます(もちろん断定はできないですがね)。この手術は一度この方の喫煙が判明し延期となっていました。喫煙があると痰が多くなるため抜管できない可能性があります。
さらに肥満もありました。この体格のため脊髄にカテーテルも挿入できない状態での手術でした。術後の麻痺はこの影響も考えられます。
これならそうなるだろうなと納得の生活習慣でした。

この手術にはかなりの資源が使われました。輸血はRBC 50単位、FFP 50単位、血小板 30単位とかなりの量が使われました。心臓血管外科の先生、機械出しの看護師さん、外回りの看護師さん、臨床工学技士さん、そして麻酔科の先生と多くの人の時間が使われました。
ここまでの資源を生活習慣のために起こった病気に使っているのです。もちろん生活習慣が病気の原因だったと断定はできませんが可能性は高いです。日本の手術費用は高額医療制度もあるため本人負担がそこまで高額にはなりません。
喫煙や肥満などは本人次第でどうにでもなります。たばこを吸う、暴飲暴食する、これらによって起きてしまった病気は本人の責任ではないでしょうか。たばこを吸うからには肺がんになっても治療を受けないくらいの意思があってもいいと思います。
喫煙者の肺がんや肥満の動脈硬化に関連する疾患は医療保険の適応外ではいけないのでしょうか。こんな症例のために献血している人がいると思うと悲しいです。

日本ではどのような人でも最高の医療を受けることができます。時には過剰とも考えられる医療を受けることができます。どんな人でも高価な抗がん剤治療を受けることができます。2週間に1回、1回41万円のオブジーボを誰もが安い価格で受けることができます。このようなことを続けていては日本の医療制度は崩壊します。そもそもこのようなおかしな状況は医療だけです。飛行機だってエコノミークラスの料金でファーストクラスは乗れません。ファーストクラスはお金がある人の特権です。なぜならみんなにファーストクラスを提供していてはビジネスが成り立たないからです。医療はビジネスではないかもしれませんが無限の資源ではありません。

今回の症例もですがこのような経験はかなりしてきました。医療は基本的人権かもしれませんがどこまでが保険医療なのか考えなくてはいけないと思いました。

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